雨(あめ)をふらせてくれた上人(しょうにん)さま
1
むかし、むかし、ある夏のことだ。大多喜一帯は日照(ひで)りで田んぼの稲も、畑の作物の枯れかかり困っていた。そこで村の衆(しゅう)は妙厳寺(みょうごんじ)の上人(しょうにん)さまに、相談に行った。すると上人(しょうにん)さまは
「天に近い野々塚山(ののづかやま)で祈りましょう」
と言ってくださった。
2
山のいただきにつくと、お祈りが始まった。上人(しょうにん)さまの力強い声が山にこだました。村人たちも手を合わせ、(仏さま雨をふらせてくださいませ。田んぼの稲も畑の作物の枯(か)れてしまいます)(どうか雨をふらせてくださいませ)と、心の中で祈った。
太陽が野々塚山(ののづかやま)の真上に来た。村人の顔には(やっぱりだめか)というあきらめの表情がみえてきた。しかし、上人(しょうにん)さまの声はおとろえることなくつづいた。上人(しょうにん)さまの額(ひたい)からは汗がポタポタ落ち、衣もぬれてきた。
「やっぱり、だめかねえ」
「雲のけはいもないね・・・」
村人に絶望感(ぜつぼうかん)がただよってきた。その時だ。
「雲だ。雲だ。みろ、雲だ」
歓声(かんせい)があがった。
「おお、雲だ。ご上人(しょうにん)さまのお祈りがとどいたのだ」
黒雲がものすごいいきおいで、広がり、野々塚山(ののづかやま)の頭上に近づいてきた。
「あれは、なんだ」
「りゅう・・・竜だ、竜だ」
黒雲の中を、とてつもなく大きな竜が体をくねらせ泳いでいるではないか。竜が太陽をおおうと、空一面に黒雲がわきあがり、すさまじいいきおいで雨がふりはじめた。
「ありがとうございます。生きていくことができます」
野々塚山(ののづかやま)の頂(いただき)は喜びにわきかえった。雨は木々にも、稲にも畑の作物にも、土ぼこりの道にも・・・大地のすべてのもに、しみいるようにふりつづいた。おかげで、ひびわれた田んぼや畑も生きかえり、大多喜の人は日照りの夏をのりきることができた。
野々塚山(ののづかやま)には「雨ごい」の碑(ひ)が建てられている。
おしまい
(斉藤弥四郎 ふるさと民話さんぽ「広報おおたきNo.408」より)
(大多喜町)