妙厳寺(みょうごんじ)の枕飯(まくらめし)
1
むかし、むかし、平沢(ひらさわ)の妙厳寺(みょうごんじ)の麓(ふもと)におばあさんが一人.で住んでいた。貧(まず)しかったがたいそう信心深(しんじんぶか)かった。
「こうして、健康で働くことができるのも、お祖師(そし)さまのおかげだ。ありがたいことよ」
と、照る日も降(ふ)る日も炊(た)いたばかりのご飯(はん)と、季節の花を持って妙厳寺の祖師さまにお参りをした。
帰りには
「拝(おが)ませていただきありがとうございました。きょうもいい日になりますように」
と、お坊さん達にお礼のことばをかけながら、坂道を帰って行った。
2
ある春の晴れた日の朝だった。
「おばあさんが今朝は、まだ見えないんですが」
「どうかされたかね。早起きのおばあさんが・・・」
小坊主達の話を聞いた住職(じゅうしょく)は
「だれか私と一緒(いっしょ)におばあさんのようすを見に行きましょう」
と、小坊主を連(つ)れておばあさんの家に行ってみた。すると、雨戸がまだ閉(し)まっているではないか。
鍵(かぎ)などかけないおばあさん、すぐに戸は開いた。おばあさんは布団(ふとん)の中に寝ていた。静かな穏やかな顔で寝ていた。 そして、枕元にはおばあさんが毎日使う茶碗(ちゃわん)に飯(めし)が盛(も)られ、そばに線香(せんこう)が手向(たむ)けてあった。
おぱあさんは亡くなっていたのだ。住職は小坊主に言った。
「見なさい。枕飯(まくらめし)が…」
「おばあさんは一人暮らし。いったいどなたが・・・」
小坊主が不思議そうにたずねると
「お寺のお祖師さまだよ。一人暮らしのおばあさんをふびんに思われて・・・、いや、毎朝お祖師さまに朝飯を供えて下さった、そのお礼だ。お祖師さまがお礼に供(そな)えて下さったのだ」
3
庭に咲く菜の花にチョウがひらひら飛(と)び交(か)っていた。
その後、この妙厳寺は『枕飯(めしまくら)の霊場(れいじょう)』と呼(よ)ばれ、大勢(おおぜい)の参拝者(さんぱいしゃ)でにぎわったと。
おしまい
(斉藤弥四郎 ふるさと民話さんぽ「広報おおたきNo.439」より)
(大多喜町)