キツネにばかされた与太郎
1
むかし、むかし、今の西畑小学校の近くに酒好きの与太郎という百姓がすんでいました。
2
ある秋の日でした。
与太郎は平沢のしんせきの家に稲刈りの手伝いに出かけました。
仕事が終わり、酒をごちそうになって、ほろよい気分で帰る途中のことでした。
ちょうど船塚橋まで来ると若いむすめが立っていました。
「与太さん、稲刈りごくろうさんでした」
と与太郎の手をとって歩き出しました。
しばらく行くと
「さあ、お入りください」
というので、見ると湯気がモウモウとたっています。
与太郎は着物をぬぐとザブンとお湯に入りました。
「いい気持ちだ。いい気持ちだ」
と目をとじて首までつかりました。
(ところで見たことがないが、いったいどこのむすめっ子だろう)
不思議に思って
「むすめさんやむすめさん」
とよびましたが返事がありません。
「おーい、むすめさんやーい」
ありったけの声でよびました。でも、返事がありません。
「おーい、むすめさん。むすめさん」
何度も何度もよびましたが返事がありません。
ちょうどその時、近くを通りかかった徳兵衛さんが、
(あれ、あの声は与太郎ではないか。いったい何ごとだ)と、
声のする方に行ってみると畑の肥溜めに与太郎が気持ちよさそうにつかっているではありませんか。
「与太さん、与太さん。どうしたんだい」
声をかけると、与太郎は不思議そうな顔をして徳兵衛の顔をじっと見ています。
徳兵衛が
「さあ、はやくあがんなよ」
と手をさしだしました。
しかし、その臭いのひどいことといったらありません。
近くの川におりて身体を流してやると、与太郎はやっと正気にもどり、きつねにばかされたことに気づきました。
3
このあたりは、よくきつねが出て人をばかしたそうです。
近くには「狐原」とよぶ地名も残っています。
おしまい
文:齊藤弥四郎